その日は朝サンドイッチを食べて行き、山の中腹あたりまでは割と速いペースで登りました。
そこで大休憩(食事)を取り山頂を目指したのですが大休憩後に足が前に出にくくなりました。
歩行技術が低い事、足が疲れたのもあると思うのですが他に原因として何が考えられるでしょうか?
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栗山 祐哉
いろいろな事が考えられますが、一番大きいのは血糖値変動のような気がします。
御本人が割と速いペースと感じられていると言うことは、高い心拍数を保って歩いたと言うことだと思います。心拍数が上がるとエネルギーは糖代謝を中心に生成されるため、血糖値が大幅に下がります。この状態で一度に食事を摂ると一気に血糖値が上がり、それをコントロールしようと大量のインスリンが分泌されます。これにより再び血糖値が大幅に下がります。
この血糖値の乱高下は体に著しいダメージを与える上、エネルギー源となる血糖が下がってしまっているのでエネルギーが作れない状態になったのではないかと想定されます。
登山では呼吸が乱れない程度のかなりゆっくりと感じるペースで歩いても、上りでは140~160程度の心拍数まで上がります。ちょっと息が乱れるペースで歩いた場合、160~180近い心拍数まで上がっています。
心拍数が120~140程度(平地で早歩きする程度の運動強度)では、主に脂質代謝を中心としたエネルギー代謝がされますが、160~180程度では主に糖代謝を中心としたエネルギー代謝が行われます。
登山では1時間あたりに凡そ500kcalのカロリーを消費します。6時間の山行であれば3000kcal程度のエネルギー消費となり、これを糖質だけで賄うのは現実的ではありません。
140~160程度の心拍数というのは糖代謝と脂質代謝が大凡半々程度で消費されるとされており、1500kcal程度の糖質エネルギー摂取で良いことになります。これはかなり現実的な数字です。
朝ごはんにパンとジュースを摂取したとします。これで600kcal程度の糖質エネルギーが摂取できます。さらに昼食でおにぎり3つ程度摂取したとします。これでさらに600kcal程度の糖質エネルギーを摂取できます。
血糖値の乱高下を避けるために、行動中は飴やチョコレートなどでこまめにエネルギーを摂取し続けましょう。これでさらに300kcal摂取すれば、行動中の糖質消費エネルギーを賄えることになります。
尚脂質は100ḡあたり700kcalという凄まじいエネルギーを持っているので、僅か200ḡ程度の体脂肪で行動中の脂質代謝エネルギーは賄えます。(体重60kg、体脂肪率20%の方なら、体にエネルギーとして使える脂質が12kgあることになります。84000kcal分の蓄えがあるので、これに関しては特に心配する必要がありません。)
疲れない山行を行うために、
・ 心拍数コントロールする
・ こまめにエネルギー摂取する
事が大切です。
ハートレートモニター付きの腕時計がいろいろありますので、行動中の心拍数をコントロールすると良いでしょう。
心拍数が160を超えないように注意し、常に140程度をキープするイメージで歩けば血糖値の急速な低下は避けられます。その上で行動中にもこまめにエネルギー摂取をすると、血糖値が大きく乱高下する事がなくなり、体に対する負担も減ります。
また血糖値が下がると、糖質の代わりにケトン体と言うエネルギー物質を使い始めます。ケトン体はアミノ酸から生成されるエネルギー物質で、初めは血中のアミノ酸から生成しますが、それが枯渇し始めると今度は筋肉を分解してエネルギーを作り始めます。これを防ぐために、運動前と運動中にアミノ酸を、運動中と運動後にプロテイン、糖質を摂取しておくと筋損失を防ぐことができます。
一歩一歩を小さくゆっくり歩くこと、トレッキングポールを併用すること、荷物を軽くすること、ダイエットすることなどでも心拍数の上昇を抑え、絶対的な消費カロリーも下げることができます。
これらができると、休憩もほとんど挟むこと無く行動が可能になります。
ゆっくり歩いても、結果として行動時間は短縮され、より速く遠くまで移動できるようになります。
まずは疲れにくい、効率の良い歩行リズムとエネルギー摂取を身に付けましょう。
ご参考にして頂ければ幸いです。
理論がわかると具体的に対処できるようになりますね。もっと勉強したいと思います。
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